アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第8回目は原作の新川直司先生の担当編集である、山野史郎さん。
新川先生とアニメスタッフをつなぐ窓口として、アニメへ想いを注ぎ込む、
その愛情について語っていただきました。
もう一度青春ものを見たいといわれて、
立ちあげた『四月は君の嘘』
――編集者として新川直司先生との出会いを教えてください。
最初の出会いは新人賞ですね。当時は「月刊少年マガジン・チャレンジグランプリ」と言ったかな。今の新川先生には2人の担当編集がいるんですが、新人賞を最初にとられたときは江田(慎一)さんが一人で担当していました。僕が新川先生の担当に加えてもらったのは、2004年…辻村深月先生の小説『冷たい校舎の時は止まる』のコミカライズのときからです。目をつけた何人かの新人さんの原稿を、辻村先生に見せたら「新川先生が良い」という話になって。新川先生にお願いしたというかたちですね。そこからはずっと僕と江田さんの組み合わせで担当しています。
――『冷たい校舎の時は止まる』が新川先生にとっても初連載だったんですよね。
そうですね。それまで一度も雑誌掲載がなかったので、新人さんということになります。ただ、新人賞のころからめちゃくちゃ絵が上手かった。その画力の高さがきっかけで連載をお願いしたところがあるんです。
――連載では、どんな試行錯誤があったんですか。
あるといえばあるんですが、他の方に比べるとすごく少ないタイプでした。一本目の『冷たい校舎の時は止まる』は原作がしっかりしていました。二本目の連載『さよならフットボール』は新川先生がサッカーを大好きだったから、めちゃくちゃ描きたいというテーマだったんで、こちらもほぼ修正なしでした。三本目は別のテーマの作品をやろうという話になって、かなり時間がかかりそうだとなったときに林田(慎一郎)編集長から「もう一回青春ものを見観たいんだ」と言われて。新川先生が新人賞のときに出したテーマをもういちどひっぱり出してきて構成したんです。
――それが『四月は君の嘘』。
そうですね。僕は新人賞当時、担当をしていなかったので、詳しくは知らないのですが、今と同じモチーフで女の子が出てきて、ヴァイオリンを弾く。たしか新川先生が「ヴァイオリンを弾いている女の子はセクシーで美しい」とおっしゃていて、それが作品を始める原動力になっていたように思います。
――音楽ものとなると、いろいろな大変さがあると思うんですが、そのあたりはどうやって乗り越えていったのでしょうか。
本人がおっしゃっていたのは、『月マガ(月刊少年マガジン)』には『BECK』というロック漫画があって、『ましろのおと』という三味線漫画もある。ようするに先人となる2人が切り開いた「音楽表現」をすごく勉強して、なおかつ違う表現はなんだろうと工夫したんだそうです。基本的に、誌面から音が鳴るような臨場感を見せたいというお気持ちがあるようで、そういう部分での工夫はすごくなされていると思います。ただ、連載当初は「青春」「恋愛」「音楽」という3つのテーマを掲げていて、「音楽」はあくまで柱立てのひとつだったんです。登場人物の心情をメインに描いているつもりで、どちらかというと主人公のトラウマを克服する青春ものという印象のほうが僕たちには強かったんです。
原作の結末ありきで進んでいったアニメ化の企画
――最初にアニメ化のお話があったときは、どんな印象でしたか。
うちのライツのプロデューサーの立石(謙介)さんと、アニプレックスのプロデューサーの斎藤(俊輔)さんが知り合いで。そこに連絡があったそうなんです。アニプレックスさんとA-1 Picturesさん、ノイタミナという組み合わせでもうお任せしようと思いました。その時点で「おそらく最終回はこんな感じになるんですけど、いいでしょうか?」という話をしたはずです。
――最終回の結末ありきでアニメ化の話が進んだんですね。
そうです。もともと新川先生の中では、結末は決まっていたようです。もちろん僕らも全部を知っていたわけではないんですが、イメージは伺っていました。
――原作とアニメが同時期に終わるというアイデアはそこから来ているんですね。
そうですね。実はシナリオの打ち合わせをしたのは、1年以上前なんですよ。そのとき新川先生は「がんばる」とおっしゃっていたんですけど、僕らとしては原作の最終回をアニメの最終回あたりにぴったりと終えられる自信が全くなくて。新川先生も「ものすごいものを背負ってしまった。自信がない」とよくこぼしていましたね(笑)。
――今となっては、あと数回で最終回になるわけですね。
まるで計算したとおりになっていますが、それは新川先生が悩みに悩んで、ストーリーを調整して、いま良い感じに落ち着けてくださったんです。それを今、イシグロ監督、脚本家の吉岡さんを中心にアニメの最終話に落とし込んでいく作業中です。
――アニメスタッフと原作側のやりとりはどのようにしているんですか?
新川先生がしっかりシナリオと絵コンテを読み込んでくださって。アニメスタッフ側にご意見を伝えています。ただ、基本は「いいんじゃないですか」というテンションですね。僕ら編集者はシナリオ会議に参加させていただいています。僕らも基本はアニメスタッフにお任せしている感じです。現場の方々はみんな『四月は君の嘘』を好きでいてくださっていて。斎藤さんは基本的に(宮園)かをりちゃんの話しかしないし、イシグロ監督はどっちかというと(澤部)椿が好きみたいだし。みんな、前のめりでとてもかわいがっていただいています。僕らが指摘しなくても、福島(祐一)プロデューサーが「ここまで作品に入れたほうがいいんじゃないですかね」と指摘してくださったりして。とても順調な打ち合わせになっています。
――打ち合わせのときに山野さんが「どうしても譲らなかった部分」はありますか?
全体の構成が、漫画の2話分をアニメの1話分に収めようとしているんですね。それでアニメの第1話にも、原作の第1話と第2話を入れようとしていたんです。やってみると、できなくはないんだけど、すごく窮屈な印象があって。できればアニメの第1話は、原作の第1話をゆったり入れましょうという話をしました。いまのアニメの方法論だと、詰め込んでいく作品が多いと思うんですけど、なんとか第1話の出会いをゆったり観せたいとお願いしたんです。福島プロデューサーもそこには納得してくださって。本当に素敵な1話でした。
新川先生も絶賛の第5話 そして物語は続く
――今回、各キャラクターをキャスト陣が演じているわけですが、担当編集の立場からご覧になって感想はいかがですか?
まず、オーディションにうかがったときに、声優さんのお芝居を聴かせていただいて。メチャクチャ上手いなと感心してしまいました。今回、残念ながら選に漏れてしまった人も含めて、とてもレベルが高かったです。
―――オーディションにあたり、新川先生から何かオーダーはありましたか?
新川先生からは「公生役は男の人にやっていただきたい」くらいのリクエストで。基本的にはスタッフのみなさんにお任せしていました。公生役をはじめメインキャストのみなさんは、見た目も含めて役柄のイメージ通りですね。しかも今回、メインキャストのみならず、ゲストのキャストさんもすごく豪華なんですよ。第3話の女の子の役も、若手の人気声優水瀬いのりさんなんですよね。ほかにも風間役を飛田展男さんが演じていたりして。ファン目線で楽しんでいます。
―――オンエアをご覧になった感想はいかがですか?
本当に満足しています。第5話は新川先生もご覧になっていて「超最高でした」とおっしゃっていたんです。やっぱり原作の初期のほうは、新川先生も探り探りつくっていたところがあるので、まだ固まっていないんです。僕も原作第1話よりも第2話が良い、第3話のほうがもっと良いと、先に進めば進むほど良くなっていく印象があって。アニメも先に進むほど良くなるんじゃないかと楽しみにしています。まだ相座(武士)くんと(井川)絵見ちゃんもこれから登場してくるわけですし、「見せ場はここからですよ!」と思っています。
――新川先生もアニメをご覧になっているようですが、現在の新川先生の近況をお聞かせください。
最終回までのネーム(下書き、構成)をすべて書き終えて、いよいよ原稿に取り掛かっているところです。あとは……アニメのBlu-rayとDVDに付属する描き下ろしのコミックにとりかかってくださっています。これがまためちゃくちゃ面白くなりそうだと。全部で5本。内容は『四月は君の嘘』では重要なエピソードである、公生の初演時のお話がメインとなります。
――初演と言うと……。
公生が5歳のときの出来事ですね。
――じゃあ、その観客席にはあの人とあの人がいて……。
そうです。どんな人がどんな気持ちで、その初演を観ているのか。かなり重要なエピソードになるはずですし、超レアなものになるでしょうね。
――それは楽しみです!!
あとはアニメの完成を楽しみに待っているというところでしょうか。たぶん、原作を全部読んでからこのアニメを観るのと、何も知らずにアニメを観て原作を読むのとではずいぶん見え方が違うと思うんです。なぜ、第3話でかをりが泣いていたのか。なぜコンクールで一生懸命だったのか。原作を最後まで読んでいただくか、アニメを最終回まで観ていただくと明らかになんじゃないかなと思っています。
――これからクライマックスを迎える原作を応援しております。
ありがとうございます。僕もいち視聴者として、毎週テレビの前で座って、楽しみにしています。
次回(11月13日予定)は、江田慎一さん(月刊少年マガジン編集部)のインタビューを公開します。
お楽しみに!