アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第11回目はカラフルに色づく世界を描いている美術監督の薄井久代さん。
恋をすると世界が色づいて見える――。
その透明感あふれる鮮やかな美術ができるまでを伺いました。

ロケハンへ足を運んで、ディティールをつくりこむ

――原作を最初にお読みになったときの感想をお聞かせください。

まず話がおもしろいなというのがありました。はじめは女性の人が描いてると思っていたんです。心情とか女性目線をわかっているし、こういう青春のキラキラしたものがわかっている人だなと。本当におもしろかったです。

――美術監督のお話があったときは、どんな印象でしたか?

アニメーションプロデューサーの福島(祐一)さんから、イシグロ(キョウヘイ)監督が私に美術監督を頼みたいとおっしゃっていると聞いたんです。イシグロさんとは以前、『放浪息子』という作品でお会いしていて、そのときにちょっと気にかけてくれていたようです。原作を読んでもすごく楽しそうだなと思っていたので、美術監督を引き受けさせていただきました。

――この作品は舞台が実在の練馬の街であるということがひとつの特徴ですよね。

そうですね。イシグロ監督が現実世界とリンクさせて作品をつくっていきたいとおっしゃっていて。私も取材に同行させていただきました。最初に行ったのは練馬文化センター、劇中の藤和ホールのモデルになった場所なんですけど、そこのそばに公園があって。ホールと公園をセットでつかいたいとおっしゃっていたので、ちゃんと現実味のある世界にしたいんだなと思いました。

――ロケハンにはごいっしょされていたんですね。

そうですね。ストーリーに絡む重要な部分のロケーションはなるべくいっしょに行くようにしていました。建物だけでなく、まわりの風景も大切になるので。カメラをもって、現地の情報をすべて撮影するようにしていました。

――資料写真を撮影するときは、どんなところを撮っていましたか。

私だけでなくスタッフも資料として使うものなので、パースをつけずに、なるべくフラットにまわりを撮影していました。あと床の質感、カーペットや光沢、木にニスを塗っているのかどうか……ドアのノブの形、ホールの中では扉の形状、椅子のかたちなど特徴的なものをかなり多く枚数を撮影しました。

桜並木の美術ボードで見えたモノ。

――今回の美術を描くにあたり、どんな方向性に描こうとお考えでしたか。

イシグロ監督と話す前に、私が先に思っていたイメージは『放浪息子』のようなふわっとした感じだったんです。でも、イシグロ監督とお会いしたときに「ストーリーが段々重くなっていくので、それとは真逆に鮮やかさとポップさを出していきたい」とうかがったんです。そこでガラッと方向性が変わりましたね。「透明感」「鮮やかさ」「ポップさ」という3つのキーワードを強くおっしゃっていたので、とにかくその3つを自分の中に入れて、絵にとりかかりました。

――最初はどのカットをお描きになったんですか?

初めは第1話のアバン(幕前劇)で出てきた、宮園かをりが歩いている桜並木のシーンです。あと、中学校の前の通り。その2点はメインの美術ボード(背景のお手本)として描きました。桜の花の影は、ふつう影色といって青系の色をつけることが多いんですが、今回は花びらの色で影をつけているんです。そうすることで「透明感」を出そうと思っていました

――「鮮やかさ」「ポップさ」はどのようにアプローチしていましたか?

意識したのは配色です。桜の花びら、桜の色をサーモンピンク寄りにしているんですね。空の水色に桜のサーモンピンク色は「ポップ」な組み合わせだと思うんです。同系色にまとめるのではなく、色の置き方で「ポップさ」を出そうと。小物の色もあえて「ポップなもの」を選んで、ポイントごとに色味をつけています。まず、ラフボードをバーッと描いて。イシグロ監督は私の隣の席にいるので「こんな感じで行こうと思うんですけど」と見せたら、「おおっ! いいじゃないですか!」と。ハマってくれたらしくて。リテイクもありませんでした。

――キラキラした画面づくりはどのようにお考えでしたか。

作品的にはフレア(レンズフレア、明るい光が暗部に漏れる現象)で飛ばすようなことはしていないんですよね。よく四隅を光で飛ばす(白くする)表現もあるんですが、この作品は光の量ではなくて、ちゃんとモノ自体に光を通して、モノが透き通っていることが大事だったんです。だから、一度描いてから、光が当たっている部分の色を光を飛ばし過ぎないように、コントラストを調整して、透き通って見えるように描いていました。

シリアスとギャグ、そして季節がめぐる

――この作品のシリアスなシーンについてはどのようにお考えでしたか。

福島プロデューサーともお話したんですけど、セリフや音楽が重さを出したうえに、美術を真剣に重く暗く落としすぎてしまうと、あまりにもギャップが大きすぎて視聴者もついて来れなくなってしまうんじゃないかなって。だから、あえて絵としては劇的に変わるということは考えていませんでした。もちろんモノトーンのところはモノトーンにしたり、公生の回想シーンは、暗めに振っているんですけど、劇画タッチにするとか、そういうことはせずに。見てくれている人が、自然に感情をのせられる絵作りをしたいと思っています。

――ギャグ描写はいかがでしょう。イメージ背景も多いんじゃないかと思うんですが。

ギャグカットの背景は、監督から私の判断に「お任せ」というかたちになっています。私の中でポップさやおもしろい色味をつかってみようと。ただのグラデーションではなくて、タッチを入れてみたりして全体的にデザイン的にまとめようと考えています。

――今回、美術のスタッフはみなさんフリーランスの方々が集まっているようですね。

もともと同じ美術会社にいたメンバーで集まって作業しています。みなさん中堅ぐらいのキャリアの持ち主なので安心ですし、私の絵柄を理解したうえでとても丁寧に描いてくれます。すごくやりやすい体制ですね。信頼しているので、お任せでできる部分も多々あるので。そういう面では私ひとりではなくて、美術スタッフみんなの力に左右されている作品だと思います。

―――まずは桜の季節から蛍が飛ぶ夏へ。ここから季節は秋と冬に突入していきます。どんな美術を考えていますか。

そうですね。初めにイシグロ監督から美術監督のオファーがあったときに「なんで私なんですか?」とあとから聞いたんですよ。そうしたら『放浪息子』のときに季節が変わって、葉が落ちるカットがあって。そのカットを描いていたのが私だと知ったそうなんですね。「季節を表現してくれる人が欲しいんだ」と。なので、今回も季節感がわかるように、そこを意識して描きたいなと思っています。

―――後半戦はどんな美術にしようとお考えですか。

後半は季節で言うと秋と冬になるのですが、前半の鮮やかなポップさだけでなく、後半はそれぞれのキャラクターの心情にあわせてせつないシーンや、感情的なシーンを色で表現していけたらいいなと思っています。ぜひ、季節感を観ていただきたいですね。

次回(12月11日予定)は、名和田耕平さん(タイトルロゴデザイン)のインタビューを公開します。
お楽しみに!

一覧へ戻る