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『四月は君の嘘』連載インタビュー

TVアニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフの連載インタビュー。
最初は数多くのスタッフを率いて本作の制作をおこなうイシグロ監督。
初監督作品にかける想いを伺った。


すばらしい原作と出会った初監督の意気込み

――まずは『四月は君の嘘』の第一印象をお聞かせください。

「原作のすばらしさ」ですよね。 僕は今回初監督を務めるわけですが、こんなにすばらしい原作を預けていただけて、本当にいいのだろうかと。良い作品に出会えて本当に良かった。素直に言うと、自分の「引きの強さ」に「やったぞ」というのが、今回の第一印象でした。

――どんなところに魅力を感じましたか。

『四月は君の嘘』はクラシック音楽を題材にしている作品です。キャラクターの心情や背後関係の描き方が、新川先生はとても巧みで。そこに乗せられるクラシックの楽曲も迫力がありつつ、心の機微を描いている。そういう新川先生のストーリーテリングがすばらしいなと思ったんです。アニメ化するうえでも、そういったキャラクターの心情を大事に描きつつ、制作を進めています。

――公生やかをりたちの心情をどのように描きたいとお考えですか?

漫画は基本的にモノクロ、アニメは基本的にフルカラーですよね。今回のアニメでは色を含めての絵のトータルコーディネイトに気を付けています。ひとことで言いますと「明るくポップに」。原作のカラーページや単行本の表紙の色を拾いつつ、光の存在感と彩度の高さを保った絵作りを意識しました。 原作で淡く描かれているところはカラフルに。光量を多くしつつ、絵の際(エッジ)の部分がボケないように、透明感を出そうと思っています。原作にはシリアスな一面もあるんですが、そこはガンッ!とモノトーンに。映像的にも落差があるように、作品としてのコントラスト(明暗差)を付けています。容赦なく痛い感じに演出をしようと思っています。

有馬公生と宮園かをりというキャラクターの魅力

――中学3年生の元・天才ピアニスト・有馬公生をどのように描こうと考えていますか?

公生は描くことがとても難しいキャラクターです。彼の背後に抱えているお母さんとの関係性を感じさせつつ、重くなりすぎないように、14歳なりの表情を描いていきたいと思っています。演出としてはそれがとても難しい……といいますか。原作の1シーン、1カットごとの表情を丁寧に読み解いていかないと有馬公生は成り立たないんです。キャスティングにもそれは影響していますね。

――有馬公生のキャストは花江夏樹さんですね。

今回は、公生に限らず、子ども時代の声と14歳の声をひとりの役者さんにお願いするというコンセプトで、役者さんを決めさせていただきました。別の作品だと子どもの声は女性声優さんが演じて、大人の声を男性声優さんが演じるというケースは決して珍しくはないんです。でも、今回はそれをやらないと決めていました。子どものときのトラウマがあって今がある。それを2人で分けて演じると意識が2つに分かれてしまう。そこをひとりでやることに意味がある。子ども時代の背後関係があってこそ14歳の今の公生が成り立つと思ったんです。でも、そこで問題があって。
子どもの声と14歳の声をひとりで演じ分けるのは技術的にとても難しいんです。その難しい要求を難なくこなしてしまう花江さんとの出会いは本当にラッキーでした。

――公生を変えていくヒロイン・宮園かをりはどのように描こうとお考えですか?

かをりは明るく天真爛漫という魅力があるんですが、漫画とアニメで少しだけ解釈を変えています。実はアニメでは、かをりのモノローグのセリフを極力少なくしているんですね。彼女には抱えているものがいろいろとあるのですが、かをりが頭の中で考えている事を視聴者に分からせてしまうとすべての意味がそこに集約してしまうと思いました。なので原作中にあるかをりのモノローグは小声のON台詞(口に出して言う台詞)に変更したり、あるいは省略することで視聴者に想像の余地を残しています。そうすることで彼女の魅力がより一層引き立つ、そう考えています。

ガチンコで作画する見せ場の演奏シーン

――さて、かをりと公生の魅力のひとつでもある音楽演奏シーンも気になります。どんな映像になるのでしょうか?

演奏シーンは原作ファンが絶対に期待していると思うんですが、今回は「ガチンコでやるぞ」と。これは決意表明でもあるんですが……。いわゆるヴァイオリンやピアノのみならず、第1話でかをりがピアニカで弾いているところも含めて、音にあわせて指や鍵盤の動きを作画しています。アニメーターさんにはとても苦労をおかけしているんですが、ここは正面から取り組もうと覚悟を決めていた部分です。「マジでこれをやるんですか?」とよくアニメーターさんから言われるんですが(笑)、「よろしくお願いします」と。いまの僕の仕事はアニメーターさんの応援団ですよ。

――各キャラクターの演奏は、モデルアーティストさんがシーンにあわせて演奏しているそうですね。

はい。公生のピアノ演奏は阪田知樹さん、かをりのヴァイオリン演奏を篠原悠那さんが担当しています。阪田さんは公生っぽかったし、篠原さんはかをりっぽかった。とてもぴったりでした。ちなみに阪田さんには、井川絵見や相座武士のピアノ演奏も担当していただいています。役者における演じ分けのようなことをお願いしていて、大変だったと思います。

――演奏シーンは、それぞれモデルアーティストさんが演奏を録りおろしているんですか。

そうです。各シーンの収録の前に阪田さんや篠原さんに、こちらからディレクションをさせていただいて、「(ここで)心が折れます」とか、「誰かを想って弾いてください」とか、各シーンの心情を楽曲で表現していただいています。その演奏しているところを複数のカメラで撮影しまして。それをアニメーターさんにはお渡しして、作画の参考に使ってもらっています。

――「クロイツェル」など劇中に登場する楽曲は、なかなか難しい曲が多いようですね。

篠原さんは「中学生がクロイツェルを弾く人なんて普通はいませんよ(笑)」とおっしゃっていました。いま演奏シーンのアニメーションが完成しつつあるんですが、ところどころに篠原さんぽさも出ていますね。それがかをりっぽさにつながればいいなと。

――演奏シーンの放送が楽しみです。監督としてはどのあたりに注目してほしいと考えていますか?

この作品にはコンサート以外にも楽器を演奏しているシーンがたくさん出てきます。原作漫画ではどうしても楽しめない音と映像のアンサンブルを楽しみにしてください。あと、キャラクターの動きや仕草や色彩美を楽しんでもらえたらと思っています。

イシグロ監督とスタッフのチームワーク

――今回の企画では各スタッフのみなさんへインタビューを予定しています。各スタッフさんとのお仕事の感想をお聞かせください。まずはシリーズ構成・脚本の吉岡たかをさんについて。

吉岡さんといっしょにお仕事をするのは今回がはじめてです。僕自身はそれほど仕事のキャリアが長いわけじゃないんですが、今回の現場は年齢が若いスタッフが多いんですね。それで現場では僕が頼られることも多いんです。それは役職上仕方がないと思うんですが、ときには誰かに頼りたくなるんですよね。そういうときに頼りになるのが吉岡さんなんです。吉岡さんは仕事の経験も豊富なので、脚本のみならずいろいろな局面でアドバイスをいただいています。僕の心の拠り所になっています。

――次にキャラクターデザイン、総作画監督の愛敬由紀子さん。

今回、最初に『四月は君の嘘』のアニメ化の企画を、アニプレックスの斎藤俊輔プロデューサーから伺ったときに「キャラクターデザイナーは誰にしましょうか」という話題になったんです。そのとき、僕が斎藤プロデューサーといっしょに仕事をした『放浪息子』の第7話で、愛敬さんが作画監督を担当していたんですよね。それもあって愛敬さんに声を掛けてみようという話になったんです。あと、原作の新川直司先生の絵と愛敬さんの絵の相性が良いだろうなと思ったんです。新川先生のフェミニンな雰囲気が、愛敬さんの絵の方向性に近いだろうと。実際にラフデザインがあがったときにスタッフからも評判が良くて、これは良いなと思いました。女の子や子供時代を描くのは問題ないみたいですけど、イケメンを描くのが苦手で渡亮太や相座武士を描くのは苦労されていたみたいです。

――音楽の横山克さんはいかがでしょう?

横山さんともいっしょにお仕事するのははじめてです。顔合わせの会議のときに伺ったんですが、横山さん自身も子供の頃クラシック音楽の勉強をされていて、公生と同じように毎日何時間も練習に励んでいたそうです。作品にシンパシーを感じていらして、それがとてもよかったなと感じています。劇伴(BGM)の面でも横山さんはとてもクリアな楽曲をつくってくださっています。映像の中で「透明感」を出したいという話を先ほどしたんですが、横山さんの音楽も「透明感」があるんです。その音楽のセンスにとても助けられています。基本的には横山さんがお作りになった劇伴を映像につけているんですが、あるシーンでは映像を先行してつくっていて、映像にあわせて横山さんに劇伴をつくっていただいているんです。それが2~3曲あるんですが実にすばらしいんですよ。そもそも僕が『四月は君の嘘』をアニメ化するときに、不安におもっていたことが「絵と音楽がうまくマッチングできるのか」ということだったんです。でも、横山さんの劇伴があがってきたときにばっちりとハマっていて。僕の中でひとつ安心感を得ることができました。横山さんにお願いして良かった!

――原作の新川直司先生についてはどんな印象をお持ちですか?

新川先生は漫画という媒体を通して詩を奏でるような、ある意味詩人だなと思っています。アニメ畑の人間から見ると、新川先生のすごさは「セリフまわし」なんですよ。同じセリフを繰り返すこともすごく効果的ですし、セリフしか書かれていないコマにも絵を感じるんですよね。それが本当にすごいなと思っています。あと、キャラクターの造形造詣 がとても特徴的です。鼻や首元にいわゆるタッチ線を入れつつも、シルエットがとてもフェミニンなんです。新川先生のオリジナルの絵だと思います。

――最後に、本作を期待しているファンの方々へ一言いただけますか?

新川先生がお描きになっている原作がとてもおもしろいし、セリフ回しやキャラクターもすばらしいんです。僕はそれを新川調と呼んでいるんですが、その原作に僕をはじめとするスタッフは真摯に向かい合って、アニメをつくっています。原作ファンの方を絶対に裏切らないアニメになるようにします。同時に原作を知らない方でももちろん楽しめるアニメになっていますので、10月の放送を楽しみに待っていただけるとうれしいです。

次回(9月18日予定)は、愛敬由紀子さん(キャラクターデザイン・総作画監督)のインタビューを公開します。
お楽しみに!