『四月は君の嘘』連載インタビュー
アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフの連載インタビュー。
第4回目は本作の音楽を手がける、横山克さん。
はたしてクラシック音楽をテーマにした作品にかける想いとは?
この作品のリアリティとイマジネーションを語っていただきました。
エピソードのひとつひとつにリアリティを感じました
――原作をお読みになった時の印象からお聞かせください
僕は今回のお仕事をいただいたときにこの作品を知ったのですが、読んですぐにドハマりしました。やっぱり音楽を扱った作品となると、僕は当然特別な目で見てしまいますし、もともと青春ものはすごく好きなんです。僕はクラシックのピアノを幼いころからやっていたので、練習をしすぎて音が聴こえなくなることとか、自分の体験とすごくクロスするところがあって。「ああ、こんなことがあったよね」と、ひとつひとつのエピソードにリアルさを感じることがたくさんありました。
――音が聴こえなくなることが実際にあるんですか。
練習をしすぎて、音が聴こえなくなるというか、音を感じられなくなるんですね。コンクールのときは、自分の身体に染み込んだものをロボットのように出すという感覚になるんです。半ば無意識で弾いているので、音を聴いて楽しんでいる余裕はあまりない。そういうことを20年前くらいに自分も経験していたので、すごくリアルだなって(笑)。
――横山さんもコンクール出場されていた時期があるんですね。
僕の人生で演奏をすごくがんばったのは、小学生の頃のコンクール出場と音楽大学の入学試験の2回ありました。そのときは毎日、本番の時間にあわせてピアノを弾くということをやっていたんです。「この時間になったらこの動作ができるようにしておく」という動作を自分の体にプログラミングするんです。極めてロジカルな練習法ですよね。アスリートのようなやり方だと思っていました。
――横山さんもコンクール出場されていた時期があるんですね。
僕の人生で演奏をすごくがんばったのは、小学生の頃のコンクール出場と音楽大学の入学試験の2回ありました。そのときは毎日、本番の時間にあわせてピアノを弾くということをやっていたんです。「この時間になったらこの動作ができるようにしておく」という動作を自分の体にプログラミングするんです。極めてロジカルな練習法ですよね。アスリートのようなやり方だと思っていました。
――自分の身体に音楽を徹底的にプログラミングするんですね。この『四月は君の嘘』にはいろいろなタイプのピアニストが登場しますが、横山さんはどんなタイプでしたか。
そうですね。僕が演奏をしていたときは公生と同じくメトロノームタイプでした。今、演奏家として活躍されている多くの方は、あるところまではプログラミングで練習をして、そこから先に自分の表現を見つけるのだと思うんです。でも、自分はそこまで行けなかったというか。毎日繰り返し練習するという根性がなくて(笑)、ドロップアウトしてしまったんです。決められた通りに弾くんじゃなくて、好きなように弾いた方が楽しくて、そのまま作曲をするようになっていきました。それが今の活動につながっていると思います。
――公生と横山さんには似ている部分があるんですね。原作でリアルだなと思ったところはほかにありましたか?
原作で一番リアルだなと思ったのは、生徒と先生との関係ですね。幼いころからクラシックの音楽を志している人は、先生に依存してしまう時期が必ずあると思うんです。ピアノやヴァイオリンの先生に洗脳される……というか、刷り込まれてしまう時期がある。公生だったらそういう存在は、彼のお母さんですよね。でも、ある時期が来ると、そこから巣立っていかなきゃいけない。『四月は君の嘘』はそのドラマがすばらしかったです。
レコーディングのときは原作を読みながら
――今回、横山さんは『四月は君の嘘』のために、どんな音楽をつくろうと考えましたか。
当然、ピアノとヴァイオリンを中心にした楽曲にしようと思いました。イシグロキョウヘイ監督からは「透明感」や「今っぽい感じが欲しい」というお話があって、「青春でポップな感じ」にしようと自分なりに解釈しています。音響監督の明田川仁さんが、僕が原作のセンチメンタルな一面に引っ張られているときに、明るい作品になるようにうまくコントロールしてくださって。みんながやりたいことを筋道立てて上手く組み込むことができたと思います。
――楽曲をつくるうえでメインとなるテーマ曲はどんなものですか?
PV第1弾に使っていただいた曲が、結果的にメインテーマになりました。希望とキラキラしてカラフル。PVを拝見したとき、桜が舞う風景に感激しました。この曲を主軸にほかの楽曲を考えています。
――シリアスなシーンはどんな曲をつくろうとお考えになりましたか。
シリアスシーンはほとんど迷わず書くことができました。なんといっても、音楽関係の苦しみに関しては、僕も死ぬほど経験していますので(笑)。それこそ、そんなエピソードでしたら1年分しゃべれるくらいあります。音楽って全体の8割くらいが辛いことばかりで、残りの2割でステージで輝くとか、良い曲ができるとか、最後の最後で報われる瞬間があるんです。だから、その苦しい8割を思いだして、直情的に(笑)、サラリと曲を書くことができました。
――横山さんが楽曲をつくるときは、何を手がかりにイメージをふくらませていくのでしょうか。
今回は原作に忠実にアニメをつくるということだったので、楽曲づくりに悩んだときは、答えが原作にあると信じて、原作を何度も読み直していました。映像の音楽を作るときは全てがヒントになると思っていて、基本的に僕はいただいた資料を全部見ながら作曲するタイプなんです。絵コンテをモニターに映しながら、イシグロ監督がどういうふうに演出するかを想像したり、明田川音響監督がどういうふうに映像を音楽にあててくれるだろうかと考えたりしていましたね。あとはキャストさんの声を聞いて、どのような音になるかを考えながら曲をつくることもあります。
――横山さんが作曲をするときは、どんな楽器を使うんですか。
基本的には鍵盤(ピアノ)です。あと今回は、ピアノカリンバと言う、カリンバをピアノの配列で並べている創作楽器を使っています。カリンバ屋さんにつくっていただいたのですが、ピアノを弾くようにカリンバの音色を鳴らすことができるので、作曲に使えるんです。透明感のある音がある楽器なので、メインテーマをつくるのときに役に立ちました。おもしろい耳触りに貢献したかなと。
――今回はどんな楽器編成でレコーディングしたんでしょうか。
わりとオーソドックスです。ヴァイオリン、ピアノ、フルート、ドラム、ベース、ギター……。ドラムやギターは青春を表現するのに一番ストレートな楽器だと思いました。あと声とシンセ(シンセサイザー)をたくさんつかいましたね。人の吐く息の音を入れたり、声を入れることでふわっとした透明感が出るんです。
――レコーディングはいかがでしたか。
演奏家のみなさんに原作を何も知らない状態でレコーディングに参加していただくのは、この作品の場合、何か違う気がして。今回のレコーディングのキーパーソンであるピアノの山田武彦さんとヴァイオリンの今野均さんに原作のコミックを全巻送ったんです。とにかく読んでくださいって。ほかのミュージシャンにもできるかぎり原作を読んでいただき、その状態で演奏してもらいました。いろいろな人のいろいろな感情が音楽に乗ればいいなと。
――ミュージシャンの方々からはどんなリアクションがありましたか?
みんな、公生と同じような経験があると思うんですよ。叩かれたり、怒鳴られたり(笑)。幼少期はとくにそういう経験があるはずですから。この物語全体にある、音楽家としてのリアルさを共有したかったんです。楽譜通りに弾くのではなく、その先を感じてもらえればいいなと。
――かなり盛り上がる現場になりそうですね。
レコーディングの合間の休憩時間は大体漫画を読む時間になっていて、ひたすら無口で漫画を読みふけっていました。
丁寧に自分の想いをこめながらつくった音楽
――横山さんが今回、楽しみにしていることは何ですか?
ひとつは演奏シーンの映像です。ピアノは自分でもある程度わかりますが、ヴァイオリンの演奏シーンが楽しみで。ヴァイオリニストの友人が今回の映像を観て、どういうリアクションをするかに興味があります。あと、モデルアーティストの阪田知樹さんが弾いたピアノの演奏を、僕がアレンジしている劇伴があるんです。その曲にどのような映像がついているかが楽しみです。
――今回は横山さんの楽曲がいろいろなところで楽しめる作品になりそうですね。
アニメーションの音楽って、納品したらそれで終わりという作品も多いのですが、この作品では今お話したように、作中曲のアレンジであったり、ずっと関わっているんです。それがすごく楽しくて。幸せな仕事をさせていただいているなと感じています。
――作品を楽しみにしているファンの方々にメッセージをいただけますか。
とにかく観て欲しいというのが、一番の希望です。観てさえいただければ、絶対良いものだとわかるはずです。一つ一つが、とても丁寧に作られています。原作を読んだスタッフが、みんなめちゃくちゃ思い入れを込めて仕事をしているんです。僕も音楽づくりをとにかく丁寧にやっているつもりで、これだけの素晴らしい原作に対して、最大限出来る限りの事をしたいんです。ぜひ、そのスタッフの熱意を感じてもらえればうれしいです。
次回(10月9日予定)は、新川直司さん(原作)のインタビューを公開します。お楽しみに!