『四月は君の嘘』連載インタビュー
アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフの連載インタビュー。
第5回は原作者、新川直司さん。
●「四月は君の嘘」のアニメ化の話が来たときの感想をお聞かせください。
嬉しかったのが半分、「へ~」というのが半分でした。
アニプレさん!?A-1さん!?ノイタミナさん!?体制がスゴ過ぎて現実味がなく淡々としてたと思います。
スタッフさん達と顔合わせして「この人達本気でやる気だ」と感じてからは「エライことになったなぁ」と(笑)。
課題は山積みで、なによりガッカリなものを描いてしまうかもしれない不安で喜ぶどころではなかったです。
アニメの前半部分にあたる5巻がでた時、斎藤プロデューサーに「エンターテインメントとして描き切ってくれた」と褒めてていただいて飛び上がるくらい嬉しくて、ホッとしたのを覚えています。
今現在。ほぼ自分はお役御免と相なりまして若干浮かれ気味です。
●「四月は君の嘘」という作品を描こうと思ったきっかけはどんなことでしたか?
純粋にヴァイオリンを弾く女の子が描きたかったです。
新人の頃、ヴァイオリニストの漫画を持ち込んだのですが担当エディ氏にボツにされました。チッ!
新連載を起こすにあたって青春ものをとリクエストされたこと。前作でサッカーをやったのでスポーツものはなぁ~と。
音楽が好きだったのもあり、リベンジもかねて再登場させることにしました。
一応恋愛ものと位置づけて描き始めたのですが手応えの感覚すらわからず「これでいいのだろうか・・・」とよく悩んでました。
●なぜクラシックという題材を選んだのでしょうか? キャラクターのTシャツなどにヘビーメタルやロックを題材にしたデザインのものがたまに見られますが、新川先生は本当はメタルやロック好きなのではないでしょうか?(こちらはイシグロ監督からの質問です)
兄の影響でロック小僧だったため、音楽好きとはいってもクラシックはほぼ聴いたことはありませんでした。
ヴァイオリニストを描きたいという動機がまず第一にあったので題材がクラシックになったのは自然な流れでしたね。
あとやはり小説の影響もゴニョゴニョ・・・
小学生の頃は、同室で早起きの兄が鳴らすエアロスミスの「Pump」が目覚まし代わりでした。立派な英才教育ですね。
●公生の過去を描くうえに、どのような取材や資料集めをしたのでしょうか? 今回の劇伴を作曲している横山克さんは、そのリアルな描写に共感したそうです(コンテストを目指す音楽家はみんな先生に虐待されてる(笑)と笑いながらおっしゃっていました)。
当たり前にクラシック関連の本を読んだりコンクールに取材に行ったりはしましたが、原作監修の大澤先生、菅野先生、池田さん、山崎さんの存在が非常にありがたかったです。
現場におられる方の生々しいお話が面白くてためになることばかり・・・ほとんど使えないのが残念です。
選曲から楽器の構造、弾き方などたくさん助言をいただきました。
ネームの段階で読んでいただき、原稿が出来上がってもう一度読んでいただいて、言葉使いやおかしな点があれば一緒に考えていただきました。
そういったことが公生や世界観にリアリティを生み出しているのだと思います。
●実際にヴァイオリンやピアノの演奏シーンをお描きになっていて、大事にしているところはどんなところですか?
演奏シーンはかっこよく!演奏家は演奏してる時が一番かっこよくないと何の意味もありません。特に漫画は音がないので。
あとは手は色っぽく描きたいですね。演奏家に限らず一流の方はどこかにエロスが宿ります。これ持論。
演奏シーンに限らず作画する際はコマや余白の大小、効果線の緩急、フキダシの位置などを使ってリズムよく読めるような画面構成を心がけています。
演奏シーンではそれが顕著に現れているのだと思います。
●クラシック音楽の魅力、コンサートの魅力とはどんなところだと思いますか?
その音ひとつひとつに意味があります。それは男女の会話であったり川のせせらぎが聞こえる風景であったり。
歌詞に拠らないドラマがあるのだと思います。
そういった曲の解説を頭に入れて聴くとより楽しめるのではないでしょうか。
もちろん情報なしでも楽しめますよ。
ピアノの音色は綺麗だしヴァイオリンは妖艶です。
曲が同じでも人それぞれ弾き方も違うし間の取り方も全然違います。音も変わります。
聞き比べてあーだこーだ話すのが意外に楽しかったな。
クラシックコンサートは身近にあります。
やはり生の音は素晴らしく演奏者さんの息遣いまで聞こえてきます。空気が伝染するのかこちらまでドキドキします。
演奏者さんの弾く姿を観れるのはコンサートならではで、とても凛々しくカッコイイです。
プログラムも考えられているので飽きさせません。
機会があれば是非足を運んでみて下さい。後悔はしませんよ。
コンクールも観に行けるので、頑張っている少年少女達を親目線で応援するのもいいですね。緊張感はもの凄いです。
●新川先生が描いていて、もっとも筆が乗る(描いていて楽しい)キャラクターはどなたでしょうか? また、それはなぜだと思いますか?
ちびっこ連中は描きやすいですね。あいつらはチョコマカ勝手に動いてくれるので。
好きなのは三池君ですね。表現者の恐怖や嫉妬や自尊心など、短い間にうまく入れることが出来たと思います。
妙にツンデレっぽいキャラになっちゃいましたが・・・
●上記の質問と逆の質問です。新川先生が描いていて、最も頭を悩ませるキャラクターはどなたになりますか? また、それはなぜだと思いますか?
有馬公生君です。ま〜暗い(笑)。
登場人物は作者の投影なのですが、彼には僕の負の感情を刷り込みました。
自分の嫌な部分を目の当たりにするのはとても辛く
「一緒に悩んで苦しんで血ヘドを吐け」と言われてるような気がします。
それを乗り越えて、最終話の公生君を観てくれた方々が「成長したね」って感じてくれたらいいなと思います。
●中学生(14歳)のキラキラした青春と、へヴィなシリアスシーンを描くうえで、どのように描こうとお考えでしたか。
俺にもこんな青春があったらなぁ・・・と憧れと妬み嫉みを持って描いてます。
どちらのシーンも共感してもらえなくては意味がありません。
わからないと言われるのが一番よくないので、心情を理解していただけるように観ている方を置いてけぼりにしてしまわないように、
くどいぐらい丁寧に描いてるつもりです。
その結果、心にどんな感情を持つのかでキラキラシーンとシリアスシーンの違いが生まれたのだと思います。
明確に違いをつけて描いたのは絵的なことだけで、コントラストやコマの切り方は意識して変えました。
ただあまり暗いパートを長々と引きずっても辛いのでその辺のバランスは考えています。
ずーっと思っているのですが青春って何なんですかね・・・・
●TVアニメ「四月は君の嘘」のここが楽しみというところはございますか?
自分で言うのもなんですが映像にするのは面倒な原作だと思います。やはり演奏シーンが。
「音でねーし!」ということで紙面でムチャクチャにしちゃったので、そのしわ寄せが全部アニメに・・・・ごめんなさい。
本当にどうなるのかわからないだけに視聴者として純粋に楽しみです。
1、2話の演奏シーンを観たらぬるぬる動いててビックリしました。
これは大変だっただろうなぁ。まだまだ大変なのあるんだけどなぁ。
「約2分の演奏シーンで辞書一冊分描きました。」と総作画監督の愛敬さんがおっしゃってて・・・聞かなかったことにしときました。
●このインタビューのが掲載されるころには、アニメと原作の最終話が同時期に展開することがすでに告げられているはずです。今回の試みについて、新川先生からご感想と意気込みをお聞かせください。
初めてお話をうかがったのが3巻が発売された頃。その時点で最後までやりたいとのことでした。
構想はあったものの、まだまだ先は長くどう転ぶのか不鮮明すぎてキッチリ終わらせられるのかどうか見当もつきませんでした。「大丈夫か?俺」と。
もう一度やれと言われれば、もうやりたくありませんw
しかし完結としてこれ以上の理想的なものはなく、余すところなく映像にしていただけるなんてとても幸せな作品になりました。
スタッフさんの熱意に引っ張られて頑張った甲斐があったなぁ。
・・・みなさん頑張ってたのでね・・・サボれなかったっていうね・・・それだけなんですけどね。
●「四月は君の嘘」ファンの皆様へ、メッセージをお願いします。
絵良し!声良し!音楽良し!と良いことずくめ。アニメのクオリティは本当に素晴らしいです。
スタッフさんの熱意や頑張りが画面からドンドコドンドコ伝わるはずです。
こんな恵まれた体制でみなさんに作品をお届けできることはとても嬉しく思います。
モノトーンの紙面から飛び出した公生やかをり達は新たな旅へと出発しました。
音楽を伴いカラフルに色付いた彼らの旅がどのようなものになるのか、たくさんの方々に見守っていただけたら幸いです。
みなさんの心に残る作品になればいいな~
次回(10月16日予定)は、斎藤俊輔さん(プロデューサー)のインタビューを公開します。お楽しみに!