『四月は君の嘘』連載インタビュー
アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第11回目は作品のロゴやサブタイトル、パッケージのデザインを担当している、
グラフィックデザイナーの名和田耕平さんのインタビューです。
ロゴをよく見てから、こちらのインタビューを読むと、
そこに込められた想いがわかるかも、です。
作品のロゴができあがるまで
――今回の作品に関わられることとなった経緯についてお話ください。
最初に斎藤俊輔プロデューサーからお話をいただきました。斎藤さんとは『放浪息子』のときにご一緒させていただいていて、そのときからのご縁ですね。ただ、僕は漫画原作のアニメって難しいなと考えているんですね。すでにイメージができあがっているものに手を入れることになるので苦労するんです。それで斎藤さんが打ち合わせに事務所へいらっしゃって、『四月は君の嘘』の単行本を取り出したとき、「今回も漫画原作か……」とちょっとテンション下がってしまったんですね。でも、いただいた単行本を読み始めてからの僕のテンションがすごく上がったのを覚えています。「こんなおもしろいのなら前言撤回だ!」って(笑)。
――原作のどのようなところに興味をお持ちになられましたか?
音楽ものということでも楽しめたんですけど、公生が青春の中で成長していくところがおもしろかったんですね。
――今回の名和田さんのお仕事というと……まず、タイトルロゴのデザインですよね。
そのときに「喪失と再生というテーマについてお話をしました。ロゴの文字の端に色がついている部分があるんですが、あれは「欠けている部分は一度失われた部分でもあり、そこから再び描きはじめる部分でもあるんだ」などと饒舌に語ったような気がします(笑)。
――イシグロ監督からはどんなお話があったのでしょうか。
今となってはうろ覚えなんですけれど、最初に提出したときに五線譜などの音楽要素を入れたロゴ案も入れていたような気がするんです。だけど、監督と初めてお話させてもらったときに「観る人に音楽ものだと構えてほしくない」とおっしゃっていたんです。それで、音楽とは違う方向性のロゴにしようと思っていました。あとは、監督のご要望をうかがって。その後に監督のアイデアを取り入れたロゴを何パターンか提出しました。
――じゃあ、そこからさらに微調整を重ねているんですね。
提出したロゴと完成したロゴを並べてみると、あまり変わっていない印象があるかもしれません。ただ、よく見ると細かいところが変わっています。微調整を重ねるたびに自分の中では少しずつ軸が定まっていく感じがあって。ロゴを強くしていった感じがあります。そのあたりは、イシグロ監督のディレクションが良かったんだなと思いましたね。
頭の中にカチッとハマる「書体」
――いまのロゴの「書体」に決めたきっかけはなんだったのでしょうか。
僕が「書体」や「デザイン」を考えるときは、絵や物語やタイトルの響きから、しっくりくるものをいくつか見つけていくことが多いんです。今回の作品に関しては「もうこれだな」という「書体」を決めていました。それこそロゴの文字を打つ前に。ロゴのアイデアを考えている段階で、すでに決めていたんです。作品を読んで、イメージしている段階で、頭の中にカチッとハマる「書体」があったんですね。漢字は「ヒラギノ」、仮名が「游築の36ポイント」になります。「ヒラギノ」って骨格が硬いんですね。シャキッとしている感じがいいと思ったんです。「ヒラギノ」の硬質をベースにして、そこから仮名で崩していこうかなと。ピアノって硬質でもあり、木で柔らかい。そのへんのニュアンスです。
――書籍や単行本のロゴと、アニメのロゴで違うところはあるのでしょうか。
あんまりないですね。「映像になるなら一度にロゴが出るのではなくて、ロゴの文字が出てから、最後にロゴの色がついてほしい」と言うようなリクエストを監督にしたことはあるんです。PVではそういうふうにロゴを出してもらって。イシグロ監督と認識が一致してるんじゃないかなと思いました。良い使い方をされていて嬉しいなと思っています。
――名和田さんのお仕事はタイトルロゴのほかには……。
各話のサブタイトル、オープニングのスタッフロール、あとは宣伝物やパッケージ(Blu-rayやDVD)ですね。
――オープニングのスタッフロールもやっていらっしゃったんですね。
地味にやっています(笑)。言われないと気づかないかもしれないけれど。先行上映会があったんですが、実はあのときに流れたオープニング・テーマは、いまオンエアされているものとスタッフロールの入り方が違ったんです。上映会のあと打ち入りパーティがあって。イシグロ監督と顔をあわせた瞬間に「すみません! スタッフロールの入り方が本番では変わりますから!! いまからスタジオに戻ったらすぐに作業します」とおっしゃってくださったんです。実際にオンエアで第1話を拝見したら、スタッフロールの入り方が変わっていて。本当にギリギリまで手を入れてくださるんだなとうれしくなりました。
――名和田さんがおつくりになったサブタイトルも、とても印象的に使われていますね。
本編の最後にサブタイトルが入るとは知らなかったんです。こちらもオンエアを拝見して知りました。印象的に使ってくださってうれしかったですね。
――サブタイトルの書体もロゴに準じているんですね。
自分的にはそれしかない、という印象でした。やはりロゴやサブタイトルの書体から、視聴者のみなさんに何かを理解してもらおうとは思っていなくて。ロゴとあわせて本編を見てもらったときに「なんかわかるな」と感じてもらえればいいなと。
イシグロ監督は中に入れてくれる人
――実際にオンエアされている本編をご覧になった感想はいかがですか。
本来、そもそも音楽を扱う漫画の中で原作の『四月は君の嘘』ってすごくがんばっている作品だと思うんです。今回のアニメ化は、そこにあえて音を入れることをしているわけで……スタッフの映像テクニックや解釈が本当にすばらしいなと、毎回、感心するばかりです。僕は自分が関わっている仕事を、人におすすめすることが苦手なんですが、実は仕事場に『君嘘』のポスターを貼っているんですよ(笑)。作品に関わることができて、イシグロ監督とお会いすることができてうれしかったです。
――パッケージのデザインは、どんなことを意識しておつくりになっているんですか。
パッケージに関しては「青春感」よりも「クラシック音楽のイメージ」を中心に落とし込みたいなと思っているんです。ただ、あまりやりすぎてシックな印象にならないようにしたいなとは思っています。
――今回、『君嘘』のお仕事をやってみて、現時点での感想はいかがですか。
グラフィックデザイナーってアニメの映像をつくっている人から見ると、離れている立場に感じられると思うんです。やはりアニメの現場は映像をつくる人がメインですから。そういうこともあって、アニメの仕事をしていると、たまに孤独だなと感じるときがあるんですね。でも、イシグロ監督は中に入れてくれる人なんです。たまたま監督の友人が共通の知り合いだったりしたこともあって、監督は僕のことを知っていたようだし。僕の仕事は、イシグロ監督に引っ張られている気がするんですよね。そこにすごく感謝しているし、イシグロ監督のモチベーターとしての強さを感心していますね。